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図書館の崩壊 (2003年10月6日)

GoogleAnswersをご存知だろうか? サーチエンジンのGoogleが数年前から始めた有料サービスで、ありとあらゆる質問に対して、Googleが契約したフリーのサーチャーたちがウェブ上の情報を検索した結果を返信してくれる。料金は報奨金制になっており、質問する際に自由に価格を設定できる。(最低価格は$2.50)サーチャーたちは餌に食いつく魚のごとく、送られてきた質問を捕える。捕えられた質問は一定期間ロックされる。ロックされた期間内に質問者が満足する回答を得れば、料金の75%はサーチャー、25%はGoogleに振り込まれる事になる。

このサービス、あきらかに図書館のレファレンス・サービスの中心的機能である依頼調査を有料で行うというものだ。米国Cornell Universityの図書館では大学図書館レファレンスとGoogleAnswersとの比較実験が行われた。その結果、質問者の満足度には両者の間に大きな差はなかったが、コストパーフォマンスではGoogleAnswersが図書館のそれを凌駕している事が判明した。

毎秋、ICU図書館ではK大学から図書館情報学専攻の実習生を受け入れている。例年レファレンス部門の実習では、レファレンス・クエスチョンを与え図書館内の資料を使って事項調査の解答を求める課題を与えてきた。1.(株)リコーの住所および電話番号を知りたい。2. 男女雇用機会均等法の英訳名を知りたい。3. アメリカの詩人エマソンのフルネームおよび原綴りを知りたい。などなど。今回、Googleほかインターネットで調べてみたら20問の課題のうち18問までが、あっという間に解けてしまった。今年から課題は出さない事にした。

「モノ調べ」は図書館レファレンス担当者のような専門家に依頼する時代ではなくなった。もし依頼するとしても図書館員ではなくサーチエンジン会社に依頼するようになるだろう。インターネットの発達で図書館の業務は大きく変化したが、その中でレファレンス・サービスはインターネットでは置き換える事のできない「最後の砦」と言われていた。それも今崩れ去ろうとしている。この先、図書館にしかできないサービスというのは一体あるのだろうか? これから図書館に求められるサービスとは何なのだろうか? 答えはいつも簡単だが、実行はいつも困難だ。

図書館は利用者を教育しなければならない。従来「利用者教育」と呼ばれていた業務の中で行われていたような「図書館の使い方」の枠を越えた、包括的な学習・調査・研究のための情報収集の方法、または論文作成の方法などを組織的・計画的に教授しなければならない。図書館内資料の活用法・サーチエンジンの活用法・オンラインデータベースの活用法・論文作法などを通じて全ての利用者を(主に情報収集と活用において)Self-helpできる研究者に育て上げる事が第一の使命になる。単なる情報の集積所・情報への窓口ではない、教育機関としての図書館。そこに「モノ調べのプロ」以上の存在理由を見出す可能性があるように感じているのだが如何なものだろうか。

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