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『二笑亭綺譚』 2015-02-05

『二笑亭綺譚』(昭和14年 昭森社)です。西脇順三郎がオックスフォード大学を退学したのは大正14年。世界一周の旅にあって、その年の12月8日に同大学を見物した赤木城吉(仮名)は帰国後、独断専行で自宅の建築に着手するが、昭和11年、脳病院に強制入院させられ、完成を見ることは叶わなかった。その建物を、著名な精神科医の式場隆三郎が詳細に調査して、『中央公論』(M/051/C66)昭和12年11月号と12月号に発表しました。
建物は昭和13年に取り毀され、深川區門前仲町二丁目三番地五から永遠に姿を消した。

『日本の知性17 式場隆三郎』(081.6/N777/v.17。昭和36年刊『現代知性全集49 式場隆三郎集』の復刻)が、本文を収録しながら、40葉の写真を欠いていることは何とも惜しまれます。

目次と、それに関連する写真は以下のとおり(数字は写真番号)

發端・電話事件
赤木城吉小傳
二笑亭の由來
異様な外観 →1. 二笑亭遠景 2. 表入口の鐵の雨除 3. 正面
不思議な間取 →調査に同行した建築家谷口吉郎の見取図あり
黑板に殘された文字 →15. 建築メモの黒板
節孔窓 →16. ガラス入節孔窓
和洋合體風呂 →17. 和洋合體風呂 18. 同 部分
九疊の家 →25~29に側面、正面、入口、階段、違棚
昇れぬ梯子 →34. 土藏にある昇れぬ鐵梯子
遊離した厠 →30. 遊離した便所 31. 便所の内部
鐵板の目隠し →38. 鐵板の目隠し
土藏裏の祠 →39. 土藏裏と鐵棒塀との間の祠 40. 同入口の獅子
天秤堂
使へぬ部屋
巨大な擂木
二笑亭主人語録
診斷
藝術としての二笑亭
生活の反省
二笑亭後日譚
跋(柳宗悦)
二笑亭の建築(谷口吉郎)
The Quaint House of Nishotei (Bunsho Jugaku)

佐藤春夫が『東京日日新聞』に書評を書いています。(『定本佐藤春夫全集』(913.6/Sa85)第22巻所収)

『二笑亭綺譚 50年目の再訪記』(平成元年 求龍堂)です。昭和40年に出た『決定版・二笑亭綺譚』(今野書房)に昭森社版から写真を転載し、「50年目の再訪記」として、以下を追加している。

二笑亭主人異聞(式場隆成)
二笑亭再建せり(藤森照信)
小説 毛の生えた星(赤瀬川原平)
(付)海外旅行記(渡辺金蔵)

奥付裏に、二笑亭に隣接する越延商店前での古い集合写真が掲載されている。右端に"直徑一間餘の鐵板の半圓形"の雨除が写っていて、その前に立つ子供の背丈より高いことがわかります。
写真中央は、式場隆成らが話を聞いた、同商店主の小宮氏。赤木城吉の、下の二人の子供と年が近かった。

「何しろ、あの旦那はお金持ちだったから」
「で、その旦那の名前ですが、何といったのですか」
「渡辺金蔵だよ」
ここに至って、本名が明かされます。これを聞いたときの、赤瀬川の感想は、
「たしかにお金持ちになりそうな名前ですね」。

「中へ入っていくと、下の地面にびっしり、石臼が敷き詰めてあったりして。しかも、それが全部新品のきれいな臼なんだ」
「野球のバットくらいの長さがあるやつ(注:すりこ木)が、何十本も、ごろごろしてた」
跡地の土中から、大きな丸鋸の刃が出てきたともいう。

今野書房版にあった、戦災で焼失した写真に代わる挿絵と、新たに手を入れた寿岳文章の英文解説は、求龍堂版では割愛されているが、模型師岸武臣ほかが製作した、50分の1の二笑亭再現模型のモノクロ写真を見ることができる。全景のほかに部分図が全15葉。

模型をはさんで岸と藤森が対談しています。「しかしよく作ったねえ」と第一声を発した藤森は最後に、「それにしても模型をもとにして原寸で誰か作ってくれないかなあ」。

『芸術新潮』(P/705/G32)1990年2月号が、「半世紀後に甦った"幻の建築"二笑亭」という2ページの記事で概要を記し、昭森社版から写真2葉を転載、さらに、角度を変えて撮った再現模型の写真3種を、これはカラーで紹介しています。唯一現存する渡辺金蔵の写真(パスポート用)も載っている。

『定本 二笑亭綺譚』(1993年 ちくま文庫)です。求龍堂版の増補版。「二笑亭主人異聞」は加筆改稿され、「天秤堂正午の茶事」となりました。渡辺金蔵の、「初めこの家は、天秤堂と云ったのですが、その後二笑亭と改め、また、大三とも云ひます」という説明を踏まえての改題である。母屋の玄関の上には、天秤棒が一本はめ込んであった。

再現模型は細部に修正を加え、キャプション付きの大小13葉のカラー写真に収められている。CADによるデータ化も進行中で、あとがき末尾に小さく、二笑亭断面図が示してあります。三井永一の挿絵も復元されていて、こうなると、昭森社版で12ページに及んでいる寿岳文章の英文解説だけ、未だに読めないままなのが心残りです。

渡辺金蔵は昭和17年6月20日、脳病院にて病没する。強制入院のあと付けていた日記は、二笑亭のことには一切無関心だった。墓は昭和2年に建立済みである。巨大な墓石で、異様に奥行があり、家名は刻まれていない。

式場先生のお言葉:
「…精神分裂病の多くは、蒐集欲と保持欲にかられやすい。かれらは無意味に蒐集し、理由なくただ物品を守りつづける」。
思い当たるフシのある人は気をつけましょうぞ。

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