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活字のアウラ -活版印刷による16~18世紀辞書コレクションから- (2005年9月~2006年3月)

前回は聖書写本の複製版コレクションにより視覚的に美しい彩飾写本を展示した。今回スポットを当てる, 辞書コレクションは16~18世紀, ヨーロッパに おいて活版印刷をへてつくられた, いわゆる西洋古版本である。AからZに 語彙が排列される辞書はオンラインデータベースの原点でもある。産業革命期以前の手漉き紙により成り立つ西洋古版本のうちの辞書コレクションに ついて, 見開きより発せられる活版印刷独特のアウラを鑑賞してもらう。 彩飾写本に使われたヴェラム(羊皮紙)と比べ記録媒体として保存性には 劣るが, 15世紀グーテンベルクによる活版印刷以降, ヨーロッパでは生産性が高く取り扱いが便利な「紙」が大量に普及することとなった。本を成り立たせている重要な要素である「紙」の存在についても, あらためて捉えなおす機会としたい。古版本時代の本の構成についても簡単な解説を参考にされたい。

展示品一覧

写真/003Casaubon, Meric. De quatuor linguis commentationis pars prior quae, de lingua Hebraica, et de lingua Saxonica. London: 1650

ヘブル語・古英語注釈書

写真/006 Lye, Edward. Etymologicum Anglicanum. London: 1743

英語・語源辞書

写真/005 Bailey, N. Nathan. Dictionarium britannnicum; or, A more compleat universal etymological English dictionary than any extant. London: 1730

英語・語源辞書 数多くのイラストが掲載されている

写真/007 Shaw, William. An Analysis of the Galic Language. Edinburgh: 1778

ゲール語文法書

写真/001 Junius, Hadrianus. Nomenclator, omnivm propria nomina variis lingvis explicata indicans. Antverpiae: 1577

ラテン語辞書 16世紀ベルギーアントワープのプリンタとして全盛を誇ったChristoph Plantinの印刷所によるもの。見開き中央はプランタンのトレードマークである「黄金のコンパス・精励と不動」のデザインがみられる。

写真/002 Collado, Diego. Ars grammaticae Japonicae linguae. Roma: 1632 (Facsimile Edition Tokyo: 1972)

「日本語文典」 1632年ローマで刊行された日本語辞書のファクシミリ(複製)版。17世紀, 日本宣教のためCollado神父により編纂された。同書はベッソンコレクション(海外キリシタン版)としても知られ国内では天理大, 筑波大図書館などが所蔵している。

古版本豆知識

紙にまつわる話

写本時代の中世ヨーロッパでは紙ではなく羊皮紙(parchment, vellum 羊・子牛・ヤギの皮)を本の材料としていた。12世紀, ヨーロッパにアジアから紙が伝わったが, しばらくは紙が本に使われることは少なく, 聖書や時祷書などはもっぱら羊皮紙に書写されていた。Scribe(写字生)が平均的な時祷書を1頁書写するのにまる1日かかったとする研究もある。大判聖書を1冊, 羊皮紙で作る場合, 多くの羊や子牛がその材料となった。前回, 世界3大聖書写本の一つBook of Kells「ケルズの書」のファクシミリ版(複製)を展示したが, ケルズの書では約190頭の子牛が材料になったとされる。写本時代の本の製作はとても時間と手間のかかるものであった。その後15世紀のグーテンベルク以降, 取り扱いが容易な紙がヨーロッパ中に普及するところとなり活版印刷の普及とともに情報の時間軸が大きく変化することになったのである。

活字のなりたち

印刷活字のなりたちはグーテンベルクから19世紀前後まで殆ど変わらなかった。父型(パンチ)を作り, そのパンチで母型を作る。母型を鋳型にセットして合金(鉛, 鈴アンチモニー)を流し込んで活字を鋳造するというのが大まかな流れである。ちょうど粘土の塊にハンコを押し付けて, できた穴に石膏を流し込むとハンコと同じ型が取れるのと同じイメージである。熟練工はひとつの鋳造器から一日4,000個の活字を作り出したが, これは10~12秒で1つの活字を作った計算になる。

古版本と印刷技術

古版本とは西洋では手引き印刷の時代に刊行された本のことである。グーテンベルクが活版印刷術の発明をした1450年代から1830年頃までの手引き印刷の時代とされている。特に印刷技術が生まれて間もない1500年までの時代をIncunaburaインキュナブラ(揺籃期)とよんで書誌学上の時代区分がされている。このインキュナブラの時代にヨーロッパ250都市, 1,000箇所以上の印刷所が活動し約2,000万部の印刷本が刊行された。ヨーロッパでは印刷本が中世1000年を通して製作された写本の数をほんの数十年で上回ってしまったのである。

古版本を語る

写真/久保さん 今回の展示を担当した国際基督教大学図書館員、久保誠氏に古版本のさまざまな側面についてインタビューした。久保氏は私立大学図書館協会、西洋古版本研究分科会で 2002~2003 年度代表を務め、現在も明治大学で西洋古版本のコースを受講している。(インタビュア:松山)


― 2005年春学期まで行われていた展示 『時空を超える「描かれた文字」』 と今回の展示 『活字のアウラ』 との違いを教えてください。

前回は主に彩飾写本と呼ばれているもので、聖書がほとんどでした。見た目の美しさが際立っていました。それに比べると今回の展示は地味に見えるかもしれません。写本というのは写字生と呼ばれた人たちが全て手書きで書写したものだったのですが、今回展示している古版本は活版印刷によるものです。

写本時代には羊皮紙が使われていました。1枚の羊皮紙を作るのに、子牛1匹を要したと言われていますので、大判の本100ページは50匹の子牛や羊の皮をなめすという大変な手間がかかっていました。古版本の時代になり、活版印刷術の伝播とともに広く流通した紙が本に使われるようになったので、作業能率も上がって本の大量生産が可能になりました。

― 印刷技術が社会に与えた影響は大きかったのですか?

活版印刷がヨーロッパの歴史に与えた影響は限りなく大きいのですが、なんと言っても宗教改革の土台を作り上げたことだと言われています。グーテンベルクが1455年に活版印刷技術を完成させてから約60年後にルターの宗教改革が起こるのですが、これは今まで一部の限られた場所にしかなかった聖書が印刷され、広く行き渡ったことが大きかったのだと思います。

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