9月24日付の朝日新聞夕刊が、アメリカ大リーグの元キャッチャー、ヨギ・ベラの訃報を伝えています。ヤンキースで3度のMVPに輝き、背番号「8」は永久欠番という名選手で、その名言は「ベライズム」と呼ばれている、というんですが、これは「迷言」の間違いでしょう。“I really didn’t say everything I said!”(言ったことの全部を言ったわけじゃない)というサブタイトルがすでにおかしい“The Yogi Book”は、さしずめ長嶋語録のアメリカ版といったところ。
ネットで少し拾ってみました。
“Baseball is 90 % of mental and the other half is physical” (野球は90パーセントがメンタルで、後の半分がフィジカルだ)
“He hits both sides of the plate. He is amphibious” (左右どっちのバッターボックスでも打てるんだ。あいつ、水陸両用だぜ)
と、野球に対する洞察を述べ、
“Never answer an anonymous letter” (匿名の手紙には返事を出すな)
“You should always go to other people’s funerals; otherwise, they won’t come to yours” (人の葬式には行っておけ、さもないと、そいつら、お前の葬式に来てくれないぞ)
と教訓を垂れたかと思うと、
“I usually take a two-hour nap from one to four” (いつも2時間、1時から4時まで昼寝するんだ)
と言い放つ。
“We have deep depth” “We made too many wrong mistakes”
も、もうホントに、という感じは伝わりますが、やはり変。
“He must have made that before he died”(彼が生きてるうちに撮ったに違いない)は、スティーブ・マックイーンの映画を観たときの一言。アメリカ文学の柴田元幸は、内容満載の好エッセイ『生半可な學者』(白水社。のち白水Uブックス)で、ヤンキー・スタジアムのレフトはなぜ守りづらいのかと訊かれたベラが、“Because it gets late early”と答えたのは、「暗くなるのが早いから」という意味だと(野暮を承知で)注釈したあと、とっておきを紹介しています。 「レストランで、ピザは四つに切りますか、八つに切りますかと訊かれて、“Better make it four. I don’t think I can eat eight pieces”(四つにしてくれ。八つも食べ切れんからね)と言った」。
その柴田が村上春樹を相手に、ある時は自分のクラスで、ある時は翻訳学校の生徒たちの前で、さらには若手翻訳者たちを交えた場で行なった、翻訳をテーマにしたフォーラムをまとめたのが『翻訳夜話』です。内容が興味深いことは言を俟たない。が、いちばん面白かったのは、村上訳のカーヴァー「収集」“Collectors”(『カーヴァーズ・ダズン』(中央公論社)所収)を柴田が、柴田訳のオースター「オーギー・レンのクリスマス・ストーリー」“Auggie Wren’s Christmas Story”(『スモーク&ブルー・イン・ザ・フェイス』(新潮文庫)所収)を村上が、それぞれ訳して、どっちの既訳も新訳も収録していることです。巻末には原文も付いていて、ひと粒で3度おいしい一冊。
(M)