福島第一原発の事故後、知人の勧めで小林公吉著の「原子力と人間 闇を生む光」を読んだ。著者は26年間高校教師として物理を教えた経験を生かし、退職後にこの本の執筆に取り組んだ。ICU図書館で所蔵しているこの本の発行は2005年11月(第1刷)である。5人の登場人物の対話形式で、初学者にもわかりやすい原子力の解説書となっている。
福島第一原発の事故が収束していない現在、不安を煽らないよう配慮されたマスコミの解説が見られる一方で、一部の週刊誌などには原発の恐ろしさや放射能汚染について扇情的な見出しが並んでいる。この本には原子炉の構造など設備関係の記述はないが、原子力・原子力事故・放射線について詳しく丁寧な説明がされているので、一般の人が原子力の本質を知ることができる。
表紙には「1990年の生活レベルに戻して原子力のない暮らしをしましょう」と書かれている。1990年と言えばバブル景気、学生の皆さんが生まれた頃かその少し前。著者によると1990年以降の日本のエネルギー使用量の増加分は、現在の暮らしを少し引き締めることでカバーできるという。電力の35%が原子力によるというのは火力発電を休ませ原子力を優先した結果であり、実際の発電能力は原子力を除いても余裕があるとも述べている。自然エネルギーによる発電のデメリットを原発維持の現実的な理由に挙げる人もいるが、著者の主張は明快である。
2011年4月、NHKや新聞社が原子力発電の今後に対する世論調査を行った。学生の皆さんは結果についてどんな印象を持ったのだろうか。いずれの調査結果も「原発を増やすべき」と「現状維持すべき」の合計が「減らすべき」と「廃止すべき」の合計よりも幾分多かった。意見・感想は色々あると思うが、大雑把に言えばまさに世論を二分している。
原発からの脱却には、地域格差のある経済、政治や発電に関わる利権など問題も多い。厳しい現実を認識しながらも、我々が将来どのような社会を目指したいのかという視点が重要だと考えさせられた。学生の皆さんにも原子力について考えるきっかけになればと思い、この本を紹介する。
「原子力と人間 闇を生む光」539.09/Ko21g