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ASRSを語る (国際基督教大学図書館 黒澤公人氏 インタビュー)

写真/黒澤さん―まずASRS導入の経緯からお聞かせください。

ICU図書館では、1980年代半ばに蔵書数が図書館の収納能力を超えました。可能な限り書架の増設をしたのですが、それも80年代後半に限界を見たので、外部倉庫業者に随時図書の保管を委託して運用することになりました。その後毎年10,000冊から15,000冊分を、段ボール箱に詰めては新たに業者に預けていました。出版年が古く、利用実績の低い資料を優先的に委託保管していました。業者に預けている資料を使いたい利用者は、図書館のカウンタで呼び戻し請求用紙に記入、午後3時までに提出すれば翌日業者から本が届くという仕組みでした。このサービスにかかる図書館の労力は大変なもので、利用者からの請求受付、業者への発注連絡、送られてきた段ボール箱の受け取り、箱の開封と資料の取り出し、段ボール箱の一時館内保管場所への移動、利用者への貸出と返却、梱包、業者に引き取り願いの連絡、引き取り立会い、台帳管理などの煩雑な作業を要しました。90年代後半には委託資料は17万冊を超え、委託保管料も相当額に上っていました。この体制が15年続いたわけですが、当時からこのままでいいのか、という問題意識は当時からずっとありました。

―オスマー図書館建築と同時に設置されたわけですが、当初の建築計画に自動化書庫の構想が含まれていたのですか?

1980年代前半から新図書館建築のための調査委員会が何度も招集されていました。1990年代半ばに、大学がキャンパス全体の構想の計画書「キャンパスマスタープラン」を作成しました。この中で2000年に新図書館を建築することが決定されました。最大の問題は外部委託資料の引き取り・収納を可能にする書庫の新設でした。それと21世紀に向かって学生がコンピュータを使える環境を図書館で提供する事。この二つの基本コンセプトを盛り込むことになったのです。

―委託資料の収納に当たって、一般的な開架や集密書架なども検討されたと思うのですが、自動化書庫の案はどういった経緯で採択されることになったのですか?

図書館における自動化倉庫の資料庫としての利用は日本ではまだ導入例は無かったのですが、カリフォルニア州立大学ノースリッジ校がこのシステムを持って運用していました。ICU図書館のスタッフや何人かの教員も見学に行って、「これがいいんじゃないか」という意見でした。採択されるに至った要因はなんと言ってもコンパクトだったこと。自動化書庫自体の建設コストはかなり高いわけですが、自動化書庫に収納可能な冊数を開架や集密書架で実現するとなると、建物のサイズは何倍にも大きくなり、建築費が相当額に上ります。また委託保管していた資料は古いものばかりだったので、全部を開架に戻すメリットが少なかったということ。それ以前に、そもそも段ボール箱7,000箱に順不同に入っている17万冊の資料を書架に請求記号順に並べることは至難の業です。

―ASRSが完成して、まず倉庫から引き取った資料を全て入庫したわけですが、その時の作業にはどのくらいの時間がかかったのですか?

2000年夏に、引き取った全てのダンボールを5段くらいに積み上げてオスマー図書館の地階に並べたのですが、建物の一階分が全て埋め尽くされました。それから順次全ての箱を開封し、全ての資料を取り出して、全ての資料にバーコードを張り、1冊1冊読み取って、入庫する流れ作業を行いました。終日アルバイトにお願いした作業は、入庫作業だけで約1ヶ月かかって完了しました。1日に5,000冊から1万冊くらいを入庫したのではないかと思います。

―ICU図書館は1960年に他の国内図書館に先駆けて全面開架制度を導入し、それがポリシーの一つだったと思うのですが、自動化書架の導入でそれが崩れたのでは?

そうですね。しかし厳密には1980年代に外部業者への資料の委託保管を開始した時点で、既に全面開架ではなくなっていたと思います。2000年時点で所蔵資料の1/3は倉庫に預けられていたのですから、実際には閉架書庫になっていたと考えています。もっともこれは仮の状態だったわけで、2000年のASRSの導入で「本館の収容能力約35万冊とASRSの収容能力約50万冊で書架を運用する」ことにポリシーを変更したというのが正確なところでしょう。

―ASRSの入庫には、資料を入れるコンテナを固定せず流動的に運用するフリーロケーションと資料を定められた箱に入れる固定ロケーションがあると伺いましたが、どのように使い分けていますか?

ICU図書館では図書はフリーロケーション、雑誌は固定ロケーションで管理・運用しています。フリーロケーションも固定ロケーションも、出庫にかかる手間は同じですが、返却時の手間が大きく異なります。フリーロケーションでは取り出した複数の資料を一度に任意の空いているコンテナに戻すことができますが、固定ロケーションについては出庫時に入っていた同じコンテナを呼び出して戻す必要があります。30冊あれば30コンテナ呼び出して返却する必要があるのです。ですから、固定ロケーションでは利用頻度が高いと運用が困難です。できるかぎりフリーロケーションを基本に運用してやらないとASRSのメリットは享受できないと思います。

―ASRSを導入したことで、資料がより使われるようになったのですか?

外部に委託保管していた頃の請求とASRSの出庫指示回数とを比べると、だいたい一日に数件~10件程度だった請求が、出庫指示では100件程度にまで伸びています。単純にくらべても、利用率が数十倍になっていると思います。

―運用上の問題点やトラブルはありませんか?

ICU図書館のものは、大学図書館としては日本で最初の自動化書庫です。ですから導入前には色々と不安がありました。しかし、思ったほどトラブルもなく、また日本ファイリングが保守サービスの中で改善に意欲的に取り組んでくれているので、ほとんどトラブルはありません。どちらかというと機械やシステム自体のトラブルよりも、入庫の際資料をきちんと収めなかったなど使う側のヒューマンエラーが原因の事が多いです。多くのスタッフが出入庫にかかわる場合には、間違った使い方をしないように全員にきちんと指導することが必要になります。センサーなどの小部品の交換が必要になるケースはありますが、物理的に何かがはずれたり、壊れたりするトラブルはまずありません。安定稼動しているといっていいと思います。

―統計によればすでに収納可能公称冊数50万冊のうち37万冊分のスペースが使われているようですが?

図書の厚さなどから推定すると、実際の収納は50%を越えたあたりではないかと考えています。しかし、当然いつか満杯になるのは必至ですから、利用状況をチェックしながら、収納不要資料の定期的な廃棄作業を含めたスペースの「延命措置」を検討しなければならないと思っています。

―ありがとうございました。

参考文献:

「自動化書庫の導入と運用について―国際基督教大学図書館の運用事例報告―」黒澤公人『大学図書館問題研究会誌』第25号(2004年2月)p.1-10

「自動化書庫システムと図書館システムの連動運用について―国際基督教大学図書館の運用事例報告pt.2―」黒澤公人『大学図書館問題研究会誌』第26号(2004年6月)p.1-12

「自動化書庫システム(AutoLib)におけるサイズ別フリーロケーション方式と固定入庫方式について―国際基督教大学運用事例報告 pt.3―」黒澤公人『大学図書館問題研究会誌』第27号(2004年12月)p.1-12

「自動化書庫システムの長期運用に向けて―国際基督教大学運用事例報告 pt.4―」黒澤公人『大学図書館問題研究会誌』第29号(2005年12月)p.1-10