1928年(昭和三年)九月十六日

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1928年(昭和三年)九月十六日
「九月十五日(土)夜九時四十分多くの友人に送られて札幌を離れた。十六日(日)、火山湾の南岸にて夜が明けた。 駒ヶ嶽の麓より眺めたる湾の鏡面は美しくあった。朝七時函館に着き、湯の川時任家の客と成った。 午後二時より商工会議所の議事堂に於て講演会を開いた。五十銭の聴料を払いて来り聴く者が百三十人あった。 自分は「繁栄の基礎」並に「宗教の利用に就いて」と題し一度に二回の講演を為した。 函館に於て未だ曽つて斯んな気持の好い演説を為したことはない。閉会後、 今は函館市会議長たる旧開拓使時代の同僚松下熊槌君に自動車にて案内され、市内を見物した。 勘察加より帰来りし漁業汽船の荷揚げする状況を示され、我が心が躍った。 北海道産業の発達に関する自分の青年時代の理想の実現を見たからである。 夜に入り旧い同窓の一人寺尾熊三君を君の湯の川の家に訪い旧古を語り祈祷を共にして帰った。 充実せる一日であった。」(先生の日記より転載す)