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椋(ムクノキ)(2016年5月20日)

◆ 第2回目は、前回予告どおり椋(ムクノキ)です。アサ科ムクノキ属の落葉樹です。ニレ科かと思ったけど、最新の分類体系だと麻科なの? この樹高20mに達する大木があのマリファナさんと同じ科に入っているのはなんとも不思議ですなあ。この樹については特段深い思い入れもないんだけどね、一点だけ言っておきたいことがあるんだよ。それは「ケヤキと似すぎてて見分けがつかん!」ということですわ。寺島良安の『和漢三才図会』にも「椋樹似欅而」と書いてあります。もっとも、この悩み関してはたゆまぬ努力の積み重ねの結果、ワタクシ完全に乗り越えましてございます。いまやククノッチの頭の中では過去のほろ苦い思ひ出となつてゐるのでございます、ハイ。

◆ とにかく実際の葉っぱをくらべてみましょう。ケヤキとムクノキの枝先を切ってきたので、重ねて置いてみたよ。ホーラ、ね。もうわかんない。ここで「もうこんな微妙な違いどうでもいいじゃん」と思ったアナタ、嗚呼、惜しむべし、汝リベラルアーツの学徒よ。天地自然に對する興味を失ひし秋、吾等人類の終焉を予期せざるべからず。

◆ とにかく。この違いが分かるようになれば、アナタも樹木通として一目おかれます。だからぜひとも見分け方を覚えてくださいね。で、今度は葉っぱ1枚ずつをアップで見てみましょう。

◆ ハイッ。えーと… わかんないよね。葉のふちのギザギザ(鋸歯といいます)が荒いほうがケヤキです。これはまだ分かりやすいほうで、樹齢や葉の出ている場所(枝の元のほうか先のほうか)によっては、ほとんど見分けがつきませんです。まっ、初心者の方はしかたがありませんよ。この前図書館で植物図鑑を見ていて驚かされたのは、ケヤキのページに載っている葉っぱの写真がすべてムクノキのものでした(ちなみにこの図鑑はアメリカフウの実をアメリカスズカケノキの実として掲載しており、ちょっとアテにならないところがあります)。

◆ これじゃあ全く違いが分からない、一体どこで見分ければいいのか。図鑑も間違うようなこんな微妙な差を、実際に葉っぱを見たときに見抜けるのか。ゆうて絶対無理。いやいや見分ける方法はあります。アナタにもできます。ハイッ。次の写真お願いします。

◆ これ、葉の根本の方のアップですねえ。よおーく見てください。葉柄(いわゆる葉のエ)にいちばん近い葉脈をよおーく見てください。下になっているケヤキの葉は最後まで中心の主脈から左右に1本ずつの側脈が出て葉のフチまで達しているのに対して、上のムクノキの方は側脈からさらに側脈が出ていますね。ここが決定的な違いです。ケヤキもムクノキもあんなにたくさん葉っぱがついているのに、この違いに関しては例外はありません。どうですか。もう外に出てって確かめたくなったでしょう? ならない? あっそう。

◆ ちなみにケヤキとムクノキ、幹と樹皮はかなり見た目が異なります。若木の頃はちょっと見分けにくいけど、老木のムクノキはこんな風に根本のほうからタテに細く剥けていくのですな。ひとつ前のコラムのケヤキの写真と比べると一目瞭然なり。

◆ 最近読んだ梨木香歩『f植物園の巣穴』(朝日新聞出版,2009)は泉鏡花みたいな幻想世界が展開する大人のジュヴナイルストーリーなんだけど、主人公が子供のころ住んでいた屋敷にあった椋の巨木がひとつの重要なモチーフとして登場します。たしかに樹皮の剥がれ方がどこか怪物じみた神性を感じさせるからか各地で神木になっているものもあるらしい。

◆ 次回は何の木にしようかな。リクエストがあったらオスマー図書館宛(othmerここアットマークicu.ac.jp)にどうぞ。ただしICUに生えてる木のみです。

追伸 ひとつ言うのを忘れていたッチ。ムクノキの葉っぱって触ってみると分かるけどすごくザラザラしてる。ザラザラというよりもう紙ヤスリ並みの手触りなのです。鼈甲細工を磨くのに使われたというからほんとの天然ヤスリだね。一回ムクノキの葉に触った経験があれば、ケヤキの葉をムクノキと間違うことはありません。

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