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ネットはどのように役に立たないか (2005年10月18日)

レファレンスブック利用統計グラフ。2000年、11,891件。2001年、11,419件。2002年、10,958件。2003年、9,215件。2004年、8,248件。2005年10月現在、3,171件左の表は国際基督教大学図書館における冊子体レファレンスのステータスチェック数の統計、つまり紙に印刷された本タイプの辞書・事典類の 利用数のグラフだ。 (2005年度は2005年10月現在の値) ICU図書館内で利用されてリターントラックに戻された図書は、すべてオフィスでカウントされてから棚に再配置される。カウントされたもののうち、レファレンス資料として登録されているもののみの数を抽出した結果である。

一目で分かるように、カウントを始めた2000年からレファレンス資料の利用は、コンスタントに減少傾向を見せている。前年度にくらべた減少幅は2003年以降大きくなり、-15.9% (2002年~2003年) 、-10.5% (2003年~2004年) となっている。2004年~2005年の減少は、予測では -20% を超える可能性もあって、そうなると2000年度の 50% を割る可能性もある。辞書・事典の利用が5年間で半減したって事になる。うーむ。その理由は、訊かれるまでもなくサーチエンジンの影響。と、言い切ってしまいたいところだが、それを証明するデータも手立てもない。しかしそれ以外に図書館での学習活動の環境にここまで大きな影響を与えたファクターには思い当たらないのも事実だ。以下は急すぎるレファレンス図書の利用減少に大きな危機感を持っている筆者の 「ネットもいいけど参考図書もね」 というつぶやきと思っていただければ幸いだ。

(ト 弁士風に着替え演壇に上る)

パパン、パン、パン、パンッ!

さてさてみなさん。広ーく世間を見渡してみれば、たしかに、学術活動におけるインターネットの利用はいまや常識となっておりますな。しかし論文執筆などの学術活動を支える情報を検索・収集するのに、その全てまたはほとんどのソースをインターネットに求めるってのは時期尚早と言わなければならないのでありまーす。特に貧弱なデータベースしかない日本の学術情報の場合、索引・書誌・事典ほか書籍を駆使した文献探索法はいまだに王道。今後もその必要性が弱まることはないと思われるのです。

こう言うと、今まで書誌・索引類など使ったことがない学生諸君は、「書誌とか索引とかよくわかりません。Google の検索結果からでも、ちゃんとレポートが書けますよ」 てな具体にノタマウのではないかしら? ちょっと待ったー! レポートは 「書ければいいもの」 ですか? そんな事ぁないでしょう。それを言ったら大学は 「卒業できればいいもの」 てぇ事になります。え? それでいいって? いやあ、おそれ入谷の鬼子母神とはこのことだ。てっきりみんな 「勉強したくて大学に来てる」 のかとばかり思ってましたよ。ま、いいでしょう。ここからは 「レポート書ければ全て良しとまでは言い切れない殊勝な人」 のためにお話しいたしましょう。

まずは皆さんに聞きたい。サーチエンジンの書誌・索引・事典類に対する優位性は何ですか? そりゃ皆さん、いくらでも思いつくでしょう? ねえ。なんってったって、速い。キーワードをスタスタッ、エンターキーをポン、結果がパッ。そして多くの情報が最新。世界80億ページが検索対象。しかもページのタイトルだけではなく、本文にまで検索が及ぶ。ハイ。では書誌・索引・事典類のサーチエンジンに対する優位性は何ですか?

わ・か・ら・な・い? そうでしょう、そうでしょう。皆さん分からないでしょう。それでこそ、ここで拙が演説ぶっている甲斐があろうというもンです。いいですか? ポイントは 「どんな種類の情報が得られるか」 と 「検索の結果がどう表出されるか」 ですよ。まずは情報の種類だ。結構毛だらけネコ這いだらけ、いまや世の中情報だらけ。拙も歩けばあたるのは情報ですよ。ねえ。だから情報にもいろんな種類がありますな。テキスト情報に限ってちょっと考えてみただけもこんなにたくさんあるよ。

そう。もう見ての通り、お分かりの通りだ。サーチエンジンはこのリストの下の方の情報には強いが、上に行くにしたがって心細くなります。逆に書誌・索引・事典類はもっぱら上の方の情報専門なんですよ。よく「ネットで得られた情報は信憑性・普遍性に欠ける」 とは 授業で先生方からよく聞される話だけれども、そうも言い切れないよ。要は扱っている情報の種類、守備範囲がもとから違うんだ。魚欲しけりゃ海に行けってねえ。山に登る馬鹿はいませんよ。

それから検索の結果の出され方も大切ですな。Google なんかのサーチエンジンはサイトの人気ランキングに従って検索結果を出すんだってねえ。って事は、自分が知りたい情報がヒットしてたとしても、人気がなけりゃずっと下の方にしか出てこないってことですな。困ってしまってワンワンワワンときたもんだ。それにくらべて書誌・索引の用意のいい事。ハナッから学術情報が集中しておりますので、検索結果に要らない情報が少ない。魚釣るのに海よりいけすの方が選り取り見取りで良いてのとおんなじです。そして情報の密度が高い上に、一つ一つの情報が、タイトル・著者名・掲載情報などが項目立てられた、いわゆるデータベースになってるんですよっ。便利じゃありませんか、え? 何について何ていう書籍・雑誌を検索したのかしないのか、何年の号を検索したのかしないのかまでハッキリ自覚しながら検索ができるんでございます。ハイ。

分かってもらえたらここからが実践だ。まず書誌って何でしょうか? ええ。書誌ってのはアレですよ。特定の分野・事象などに関する書物・文献の目録でございます。例えばこの 『アフガニスタン書誌』 [Bibl 025.262/H88a] だ。明治期から2003年までの間に日本で発表されたアフガニスタンに関する全分野の、単行本、雑誌論文、記事、をはじめ時事的な報告、団体の会報までも含んだ5,000以上もの情報をリストアップしちゃったってんだから大したものだ。これを使って情報をゲットすれば私もあなたもアフガンオタク。それからこんなのもありましたよ 『武田清子著作年譜』 [Bibl 289.1/ta592i] ICU で長年教鞭を執られた名誉教授の武田(長)清子先生の著作を単行本から雑誌記事まで、リストアップしたものだ。前者はアフガニスタンという国、後者は武田清子という人物がキーとなった書誌ですな。このほかにもいろんなものを扱った書誌があるんですよ。図書館本館1階西側の本のコールナンバーが Bibl で始まる棚に一度いってらっしゃいな。

それから書誌を探すための書誌ってのがあるんだ、これが。いわゆる書誌の書誌ってヤツですな。 『日本書誌の書誌』 『主題書誌索引』 『日本書誌総覧』 『日本全国書誌』 『年刊参考図書解説目録』 『人物書誌索引』 『人物文献目録』 『書誌年鑑』なんかがあります。これらを見て、自分の興味ある分野の書誌があるかどうか調べてみるのが粋なハ・カ・ラ・イ。…なんか言葉が違うかなぁ? 違うかも。ま、いいってことで。

さあ、書誌が終わったら、お次は索引だ。索引ってのは辞書によれば 「書籍・雑誌に載っている項目・人名・用語などを書き出して五十音順などに並べ、その所在ページなどを示した表。インデックス。」 となってますな。一番有名なのは 『雑誌記事索引』 戦後、今日に至るまでの主に学術雑誌に掲載された論文を検索できるようにしたもの。今では国立国会図書館のウェブページ上で公開されてるから、これまたありがたいですねえ。なんでも最近は学術雑誌だけではなく、一般誌も収録対象になってるってんだから心強い。一般誌といえば有名なのは 『大宅壮一文庫雑誌記事索引』 だ。昭和の大ジャーナリスト大宅壮一さんの収集した大正時代からの膨大な一般雑誌が文庫になったものが八幡山にあるんだって。その文庫に収められた雑誌の記事がほとんど全部検索できちゃうってんだから、驚きだあね。松田聖子とかパチンコとかもう一般雑誌の記事索引ならではの検索が可能だよ。これも有料のオンライン版が図書館ウェブページの 「データベース一覧」 からアクセスできるよ。Bibl の棚にはこの他にもいろんな分野の索引があるから見ておくれっ。じゃ、これにて役に立つ教育講談はお終い。こんだ、辞書・事典についてお話させていただく予定だよ。それまで皆様、お元気で。さいならー!

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