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ベリオ・バーベリアン・ビートルズ(古い雑誌から) 2016-01-20

朝日新聞社のPR誌『一冊の本』2006年9月号です。音楽の三大Bとは、バッハ・ベートーベン・ブラームスの3人を指す。マコトニオ・モンロイこと作曲家の諸井誠は、著書『ぼくのBBB』(音楽之友社)で、バーンスタイン・ブレーズ(注:ブーレーズと表記されることが多い)・バレンボイムを提唱する。このコラムはまた別の三B話です。

キャシー・バーベリアンという声楽家がいました。一時期、イタリアの作曲家ルチアーノ・ベリオの伴侶でもあった彼女は、クラシックの枠を超えた歌唱法により、現代音楽や前衛音楽を主なレパートリーとしていた。自ら「ストリプソディ」を作曲してもいます。これは、マンガ(Comic Strip)に出てくるオノマトペを繋げて歌詞にしたものです。初めて聴いたのは遠い学生時代で、それこそ一聴驚嘆。それからずいぶん経って、やっとCD "MagnifiCathy : The Many Voices of Cathy Berberian"を入手しました。この曲は、今ではネット上で簡単に視聴できます。図書館のデータベースNAXOS Music Libraryでも何件かヒットします。

四方田犬彦は『一冊の本』にエッセイ「音楽のアマチュア」を連載していて、2006年9月号の「ルチアーノ・ベリオ」は第11回にあたります。四方田もまた、"MagnifiCathy"によってバーベリアンを知り、そしてベリオに向かったという。彼が初めて聴いたベリオ作品は、VisageとSequenza Ⅲで、「そこではバーベリアンの声が、およそ人間の声の限界からまた別の限界へと向かうように、恐ろしく多様で極限的な実験をしていた」と、次のように述べています。

「Visageは声と電子音からなる作品である。バーベリアンはここで一人芝居の俳優よろしく、さまざまな表情の声を披露している。20分を越すこのパフォーマンスを通して彼女がなんとか発語しようと努力するのはparole、つまりイタリア語の「言葉」という単語だ。だがそのためには数多くの障害が横たわっている。機関銃の乱射を思わせる雑音が、しばしばソプラノを遮る。彼女は絶叫したかと思えば吃音に陥ったり、厳粛と野卑の両極を一瞬にして往還したりする。…恍惚とした呻き声があり、満足しきった後の、生々しい笑い声がある(そのためにラジオでの放送はキャンセルとなった)。秘密めいた囁きがあり、威嚇的な叫びがある。そして声がようやくpaloreという語に到達できたとき、曲は終了する。これは人類の長い発展史のどこかの時点で、叫びが言語になる瞬間を再現しようとした、興味深い実験といえる。それを可能にしたのは、バーベリアンの声全体から立ち上る強烈な始原性に他ならなかった」

「Sequenza Ⅲでも似たような実験が試みられている。ここでは電子音すらなく、バーベリアンは自分の声を楽器として、前作にもまして過激な実験を行っている。わたしはそこに、神聖とグロテスクが矛盾なく存在している古代の女神の声を聴いたような気がした。その声は儀礼の厳粛さを軽々と通り越して、あまたの植物を育む生の欲望そのものであるように思えたのである。ようやるよなあ」

長い引用で恐縮ですが、これを読んで、聴いてみたいと思わない人はいませんよね。好奇心が(ムラムラッと?)わいて、さっそく探しに行ったものです。入手したLPは3枚。VisageとSequenza Ⅲ他全4曲収録の、解説も全く同じだがジャケットが2種類あったもの各1枚と、Visageに1968年10月12日録音のSinfoniaをカップリングしたアルバムが見つかりました。

Sinfoniaは、ニューヨーク・フィルハーモニック創立125周年記念としてベリオがバーンスタインに捧げて、録音の2日前に世界初演されたばかりの作品です。ジャケット裏にあるベリオ「シンフォニアについてのプログラム・ノート」日本語訳には、「"シンフォニア"(1968年作曲)は4つの部分から成るが、…」と書いてある。けれども、四方田は5部構成と捉えて、エリオットの『荒地』を厳密に踏襲したものだと指摘しています。のちに出たブーレーズとフランス国立管弦楽団によるCDは5パート。ベリオが自ら、イタリア語とフランス語で解説を書いているのですが、併載の英語訳で、the first partからthe fifth partまでについて述べているのが分かる。

バーベリアンをカバーした"Songs Cathy Sang"というタイトルのCDがあります。歌っているのはLinda Hirstというメゾソプラノ歌手ですが、解説に"I first met Cathy Berberian in 1977 when I was in Swingle II"と書いている。これがずっと気になっていたのだが…。

ダブル・シックス・オブ・パリという6人組のコーラスグループがありました。多重録音を駆使して12声でハモるところからその名がついた、ジャズスタンダードをフランス語でという趣向のグループです。そのメンバーだったことのある男声のウォード・スィングルと女声のクリスチャンヌ・ルグラン(ミシェル・ルグランの姉)が中心となって、スウィングル・シンガーズを結成する。このグループは、主にバッハの曲をジャズスキャットで歌って大変に人気を博しました。諸井誠『ぼくのBBB』にも再三その名前が出てきます(余計なことだが、この人のカタカナ名はマコトニ・オンモロイだと、私は思っていた)。

スウィングル・シンガーズは、Sinfoniaの初録音に参加している。四方田は、"ケロケロとスキャットを飛ばす女性コーラス"と言っています。グループ解散後、ウォード・スィングルはSwingleⅡを結成。Linda Hirstはそのメンバーだった訳ですね。バーベリアンとの交点はこの辺りにあったんだろうと納得しました。SwingleⅡは後にNew Swingle Singersと改称する。上述したブーレーズのCDジャケットにこの名があります。

ついでに書いておくと、クリスチャンヌ・ルグランは、ウォード・スィングルとは別にQuireなるグループを作り、唯一のアルバム『クワイア』を作成しました。CDで発売された当時、『暮しの手帖』の「レコードショップ」欄にディスク評が載っていたのを覚えています。

四方田はSinfoniaについても、各楽章を簡潔に解説し、「もし1968年を代表する音楽を2つあげろと尋ねられたならば、わたしは躊躇なくビートルズのHey Judeとともに、この作品を挙げることだろう」と評価していますが、「音楽のアマチュア」第7回はビートルズです。"あくまで今の気分で選んでいるのであって、明日になれば三分の一くらいはたやすく入れ替わってしまうことを承知のうえ"と断りながら、"思い切って"ベストテン(と別格1曲)を挙げている。詳細については、連載をまとめた『音楽のアマチュア』(760.4/Y81o)をご参照ください。 /> (M)

おまけ:女声のイエロー・サブマリン三態
ビートルズといえば、"MagnifiCathy"にはTicket to Rideが収録されていて、これも聴きのがせない。ものすごい巻き舌のベルカントですが、リフレインのところで、1回だけ地声になる。バーベリアンはビートルズの曲も多く歌っていて、"Beatles Arias"は全曲カバー盤です。イエロー・サブマリンはこれで聴きました。

次は、民謡出身の金沢明子。「イエロー・サブマリン音頭」はビートルズ結成20周年記念盤として発表されたものです。大胆な編曲にのせて、
♪街の~ 外れに~ 船乗りが~ ひとり~
と甲高く唄い、We all live in a yellow submarineの繰り返し部分には、アッソレ、アッハイハイなどと合いの手が入る。日本国中のビートルズファンの顰蹙を買ったといわれるのも頷けます。但し、訳詞などの改変はのち、ポール・マッカートニーの認めるところとなった。芸能生活10周年CD『金沢明子オリジナルベスト』全14曲のなかで断然、異彩を放っています。金沢は、何年か前にはテレビ「題名のない音楽会」にド派手なヘアメイクと着物で出演、熱唱してくれました。

最後はこの人!とご紹介したいのですが、残念ながら氏名不詳。就学年齢に達しているかどうか年齢不詳。声変わりのずっと前なので、実は性別も厳密には不詳。そんな子供たちがソロでコーラスで無邪気に歌うイエロー・サブマリンは、キャッキャ、クスクスと笑い声も交じって、まさに心が洗われるよう。おなじみの名曲を、卓上ピアノやピアニカ(?)などのおもちゃの楽器で演奏する"SNOOPY’S CLASSIKS ON TOYS"シリーズ(くるみ割り人形、ジャズ、クリスマスその他あり)の1枚です。『アビィ・ロード』さながら、横断歩道を左から右へ、ルーシーを先頭にライナス、スヌーピー、チャーリーの順に渡っているジャケット(左奥にはちゃんと、あの白いビートルも描いてある)の『スヌーピーのビートルズ』でぜひ聴いてみて下さい。強くお薦めします。

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