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"Never Let Me Go"『わたしを離さないで』 2017-10-13

小澤征爾がグラミー賞最優秀オペラ・レコーディング賞を受賞しました。対象となったのはラヴェル作曲の『こどもと魔法』で、2013年のサイトウ・キネン・フェスティバル松本における演奏です。このフェスティバルは、「小澤征爾復帰の夏 サイトウ・キネン・フェスティバル松本2013」として放映されています。私も観ましたが、お目当てはガーシュウィンの「ラプソディー・イン・ブルー」でした。ピアノと管弦楽によるこの曲に小澤が共演を強く望んだ相手は大西順子。数年前まで、世界的にも随一の人気と実力を誇ったジャズピアニストです。

小澤と村上春樹による『小澤征爾さんと、音楽について話をする』という本があります。ICU図書館が所蔵するのは単行本(760.4/Oz94oz)ですが、新潮文庫は巻末に「厚木からの遠い道のり」という、村上が季刊『考える人』(新潮社)2013年秋号に書いたエッセイを転載しています。タイトルのとおり、大西が2012年11月に厚木のライブハウスで引退コンサートを行なってから小澤と共演するまで、の経緯を詳しく綴ったものです(そもそもは、コンサート終了後の引退挨拶のとき、小澤が立ち上がって「オレは反対だっ!」と叫んだことが始まり)。

それだけでも興味深い内容になっていますが、書き出しは、以前に東京でカズオ・イシグロと食事したときのエピソードです。イシグロの長編が近く出版されるというので、二人は成功を祈って乾杯しました。でも、内容のこともタイトルのことも、どちらも口にはしなかったといいます。それから日本人ジャズミュージシャンの話になって、村上は「日本にジュンコ・オオニシという素晴らしいピアニストがいるんだ」、「高い音楽性と、見事なリズム感覚を持っている。彼女は本物だよ」と言い、興味を持ったらしいイシグロの宿泊先に、翌日、彼女のCDを預けました。

その数か月後に出たイシグロの新作が”Never Let Me Go”です。そして、村上が彼にプレゼントしたCDには、同じタイトルの曲が収録されていたのでした。(きっと「大西順子/ビレッジ・バンガードⅡ」)。

OPACで検索すると、原書(E/933/Is73n)は草むらに腰を下ろしている少女、邦訳(E/933/Is73nJ)はカセットテープの表紙が画面に出ます。大西がシングルトーンでひそやかに弾き始める”Never Let Me Go”に、やがて聴衆が心を奪われてしまったように、見た目には何のてらいもないこの2冊に引き込まれてみませんか。

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