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建物は利用者が造る (2003年5月16日)

必要があってICU図書館本館建築当時のことを調べた。1960年にアントニン・レーモンドの設計事務所と大成建設の手により建設されたのが、現在の図書館本館の東側半分にあたる部分だ。欧米の図書館理論を取り入れた東洋初の開架式図書館で、のちの日本における現代図書館建築のよき手本となったらしい。南・西・東の三方向をすべて窓にする開放感溢れる空間設計。雨どい・空調ダクトを柱に内蔵することで実現した卓越したデザインと機能性。地面を掘り下げ、3階建ての真ん中の階から出入りする事で全ての資料へのアクセスを容易にする工夫。外壁をコンクリート流し込みのままにする斬新な「打ちっぱなし工法」(後に塗装されたのが残念)など、調べれば調べるほど感心する事ばかり。

しかし、さすがに40年後の事までは考えられていない。これほどコンピュータがあふれかえる事など想像してなかったので、特にオフィス内が手狭になってしまっている。当時の消防法をクリアするためなのか、階段がやたらと閉鎖的で頑丈なドアまでついているので使いづらい。棚の拡張や家具の購入に伴って、柱に開いた空気の取入口を塞ぐケースが増えた結果なのか、冷暖房はうまく機能しなくなっている。とはいえ開放的で機能的なデザインのお蔭で、あとあとの増築や部分改装が容易だったのは確かで、いわゆる「ツブシの効く」機能的な構造であると言えよう。

ところで、V社が設計したあの新D館は、個人的にとんでもない失敗作だと思うんだけど、どうだろうか。1階のラウンジ・売店と部室ほかのセクションとのアクセスの悪さ、迷路のような部室セクション、転落の危険性のあるベランダ(ヘンなところだけ旧D館のデザインを踏襲している)、閉鎖的な階段部分、無意味な場所についている外階段とそれへの出口、予測できたはずだった自転車置き場の重要性、雨が降るとエントランスのアクリル製屋根はナイアガラと化す。図書館本館・オスマー図書館は使用する側である図書館員が徹底的に関わってレーモンド設計事務所と共に作り上げた。実際に使う者の声が反映されなければ、建築物というのはどんなに斬新でも失敗だと思うのだけど、どうだろうか。

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